ヒトの神経、筋肉の機能とロボットの類似性について

             

NPO法人犬山学術文化交流センター理事長

                         国際生化学研究所所長

                            西 垣 郁 雄 

    

 われわれの体を構成している神経の興奮伝導や筋肉の収縮は電気によって制御されている。静止しているときの細胞の電位(静止電位)はマイナスであるが、神経が興奮したり、筋肉が収縮するときは、プラスとなり、これを活動電位と呼ぶ。

 ところで、この静止電位は細胞膜に存在するNa,K-ATPaseという酵素の働きにより生ずる。この酵素はATPを分解することにより、細胞から3個のNaイオンを細胞外に汲み出し、2個のKイオンを細胞内に汲み込む。NaイオンもKイオンも + イオンであるので、この酵素によってATPが1分子分解されるたびに、細胞の電荷は差し引きマイナスになる。これが静止電位である。この細胞に興奮や収縮が来ると、この酵素は働きをとめ、細胞は一時、マイナスからプラスとなる。これが活動電位である。

 わたくしがアメリカ、ウイスコンシン大学でこの酵素の活性中心について研究していた1972年頃、この酵素がATPと結合するアミノ酸について、アスパラギン酸という説とグルタミン酸という説とが対立していた。わたくしはこの活性中心について研究し、Professor Lowel E. Hokinと共著で、アスパラギン酸であるとJ.Biological Chemistryに発表し、これが現在定説となって、どの生化学の教科書にも記述されているが、特に、Voet & Voet の教科書BIOCHEMISTRYには1ページの1/3を割いて、われわれの論文の詳細を引用し、日本語など5カ国語に翻訳出版もされている。

 以上述べたように、神経の興奮伝導や筋肉の収縮は細胞の電荷(+、-)によって制御されている。

 私は中学生の時、数学の先生が二進法を教えてくれた。十進法では指の曲げ延ばしで、11しか信号を送れないが、二進法では32個の信号が送れると聞いて感銘を受けたものであった。ロボットやコンピューター制御は0と1との二進法が使われるので、神経の興奮伝導や筋肉の収縮と共通だということになる。ただし、わたくしは概念的なことは知っていても、ロボットやコンピューターの専門家でないので間違いがあれば、御容赦願いたい。

 最も簡単なコンピューターの医療応用は心臓の拍動の最初の信号を与えるペースメーカーで、その信号が特殊心筋繊維を介して、心房、心室の収縮へと広がって行く。これは既に実用化されており、大勢の人がその恩恵に浴している。腕を切断した人にロボットの腕をつなぎ、脳から切断部まで来ている神経の信号で手の指を動かすことは可能であろう。既に実用化されているかわたくしは知らないが、理論的には可能な筈。記憶や計算の得意なコンピューターを脳につないでわれわれの脳の機能を拡張することも夢ではないかと思われる。そのためには脳の研究がもっと進まなければならないだろう。

 「ユビキタス・コンピューティング」の概念が提唱されている。われわれヒトがコンピューターの装着された服を着てコンピューターと一体化して生きることになるかもしれない。その時代が来る前に人間とロボット、コンピューターとの関係を考え直す必要があるような気がする。

Na, K-ATPaseに於けるコンフォメーション・チェンジ

略歴

西 垣 郁 雄(にしがき いくお)

学 歴

昭和37年3月   名古屋大学医学部卒業

昭和38年5月   医師免許証取得(第181933号)

昭和42年3月   名古屋大学大学院医学研究科終了(生化学、内科学専攻)

昭和42年3月   医学博士の学位を取得(医博第203号)

昭和47〜50年   アメリカウィスコンシン大学医学部薬理学教室留学

 

職 歴

昭和42年より  名古屋大学医学部 文部教官助手、講師を経て助教授

昭和63年3月  名古屋大学退官

昭和63年4月  応用生化学研究所副所長

平成9年3月より 応用生化学研究所常務理事を経て理事長

平成15年8月  応用生化学研究所理事長辞任

平成14年より  NPO法人犬山学術文化交流センター理事長

平成16年より  NPO法人国際生化学研究所所長

                      現在に至る

 

平成7年〜平成10年 J. Clinical Biochemistry and Nutrition のExecutive Editor

平成16年〜 Life Sciences, . J. Pharmacy and Pharmacology, Comparative Biochemistry and Physiology, Chemico-Biological Interaction, J. Clinical Biochemistry and NutritionのEditor

 

学術論文の国際誌発表多数

 

[所属学会]

日本生化学会

過酸化脂質学会

日本ビタミン学会

日本臨床栄養学会(評議員)

日本栄養食糧学会

日本内科学会

日本産婦人科学会

 

国際学会での活動

 国際生化学会および国際医学会で発表:アメリカ、ドイツ、カナダ、イラン、チェコスロバキア、イスラエル、ポーランド、インド、日本(神戸、名古屋)など。

 

特記すべきこと

 その1:酸素の毒性、活性酸素、過酸化脂質の研究は、わが国では今から38年前(1967年)、血液の過酸化脂質の測定(八木・西垣・大浜法)から始まった。この測定法は厚生労働省の保険適用の微量定量法(八木法)へと受け継がれた。

 

その2:ウィスコンシン大学で行ったNa,K-ATPaseのリン酸化される活性中心がアスパラギン酸であるとのわれわれの報告は現在、どの生化学教科書にも記載され、定説となっている。特に、アメリカWILEY社から出版され、日本語など数カ国語にも訳されている著名な生化学教科書Voet & Voet著B1OCHEMISTRYは初版から最新の第3版に至まで、われわれの論文の詳細を引用している。この論文を発表したとき、われわれの有力な研究ライバルであったアメリカVanderbilt UniversityのRobert L. Post教授がわれわれにくれた以下の手紙は今も忘れられない。

Congratulations on your paper in the J.Biol.Chem. 249, 4911-4916. 1t is as decisive a piece of work as I think any one could wish.

 

西 垣 郁 雄

TEL:052-361-1601

FAX:052-353-4406

E-mail: nishigaki@se.starcat.ne.jp

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